大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(ム)19号 判決

再審原告 坂田泰治

右訴訟代理人弁護士 中野公夫

同 大治右

再審被告 ビルマ連邦社会主義共和国

右代表者特命全権大使 ウ・チツ・コー・コー

右訴訟代理人弁護士 三ツ木正次

同 田中徹

同 大塚正民

同 若林清

同 上野修

同 トーマス・エル・ブレークモア

主文

本件再審の訴を却下する。

再審費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告は、「東京高等裁判所が同裁判所昭和四二年(ネ)第二〇〇七号土地所有権確認等請求控訴事件について昭和四四年五月二九日言渡した判決を再審原告の部分について取消す。右事件における再審被告の再審原告に対する請求を棄却する。再審費用は再審被告の負担とする。」との判決を求め、再審被告は、再審原告の請求を棄却するとの判決を求めた。

(再審原告の主張)

一  再審被告は昭和三九年三月一六日訴外戸田小太郎(以下戸田という。)ほか九名及び戸田から係争地の一部を賃借りしていた再審原告を相手方として建物収去土地明渡等請求の訴を提起した。同訴について再審原告ら敗訴の判決が言渡された。同判決に対し控訴の申立がされ、当該訴訟は東京高等裁判所に係属し(東京高等裁判所昭和四二年(ネ)第二〇〇七号土地所有権確認等請求事件、控訴人―再審原告ほか六名、被控訴人―再審被告ほか一名)、同裁判所は昭和四四年五月二九日、再審原告らの控訴を棄却する旨の判決を言渡した。この判決に対し上告の申立がされたが、昭和四六年三月二五日上告棄却の判決が言渡され、右判決は確定した。

二  前記控訴の申立による訴訟手続においては、弁護士中村又一、同渡辺幸吉の両名が再審原告の訴訟代理人として訴訟を追行したが、再審原告は右両名に対し前記控訴について訴訟代理権を授与したことがない(前記上告の申立による訴訟手続についても、再審原告が適法に代理されていなかったことはもちろんである。)。したがって、右両名の訴訟代理権には欠缺があったものというべきである。

三  再審原告が前記訴の提起にかかる事件(以下本件事件という。)の第一審において前記弁護士に対し訴訟代理権を授与したこと、その際作成された訴訟委任状に、控訴及び上告も委任事項に含まれる旨の記載があったことは認めるが、右委任状は市販の用紙を利用したもので、右記載も不動文字によるものであるから、これをもって委任者である再審原告が右事件について控訴、上告も委任したものとみるのは酷であり、第一審において右委任状と同趣旨のものが提出されている場合でも、訴訟の実際においては控訴、上告の都度新たに訴訟委任状を提出させていることからいっても、右委任状による委任の趣旨は控訴、上告についての委任を含まないものと解すべきものである。

(再審被告の主張)

再審原告主張の一の事実は認めるが、弁護士中村又一、同渡辺幸吉が本件事件の控訴、上告について訴訟代理権を有しなかった旨の主張は争う。再審原告が第一審に提出した訴訟委任状によると、控訴審、上告審の訴訟行為についても、再審原告の委任があったことは明らかである。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一  再審原告主張の一の事実は当事者間に争いがなく、本件事件の控訴審(東京高等裁判所昭和四二年(ネ)第二〇〇七号事件)において弁護士中村又一、同渡辺幸吉の両名が再審原告の訴訟代理人として訴訟行為をしたことは、記録上明らかである。

二  ところで、本件事件の第一審裁判所に対し右両名ほか一名を訴訟代理人に選任する旨の再審原告名義の訴訟委任状が提出され、それが同事件の記録に編綴されていることは記録上明らかであり、≪証拠省略≫によれば、右訴訟委任状は再審原告の意思に基づいて作成されたものであることを認めることができる。

そして、同委任状によれば、委任事項の一つとして「控訴上告又は其の取下」という文詞が不動文字をもって印刷表示されていることが認められる。

再審原告は不動文字による表示があるからといって再審原告が本件事件について控訴、上告も委任したものと解するのは酷であり、訴訟の実際における取扱に鑑みれば、前記訴訟委任状による委任事項のうちには控訴上告は含まれないものと解するのが相当である旨主張するが、同委任状が第一審裁判所に提出され、本件事件の記録に編綴された以上、同委任状における委任事項の記載が手書によると不動文字によるとを問わず、再審原告は第一審裁判所に対しその記載どおりの表示をしたものと認めるのが相当である。そして、その表示があった以上、訴訟委任行為の特質にかんがみ、再審原告は前記弁護士両名に対しその表示どおりの訴訟行為をする権限を付与したものと解するのが相当である。したがって、弁護士中村又一、同渡辺幸吉の両名は本件事件の控訴審においても再審原告の訴訟代理人として訴訟行為をする権限を有したものというべきであり、前記のとおり、右弁護士両名が右控訴審において再審原告の訴訟代理人として訴訟行為をした以上、同原告は適法に代理されていたものといわねばならない。

三  されば、右訴訟代理権の欠缺を理由とする本件再審の訴は不適法として却下すべきであるから、再審訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 枡田文郎 裁判官 福間佐昭 古館清吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例